2019年09月21日

2019.9.20 人形浄瑠璃9月文楽公演@国立小劇場(その2)

2019.9.20 人形浄瑠璃9月文楽公演 第一部

演目
「心中天網島」(近松門左衛門=作)
  北新地河庄の段
   太夫=(中)竹本三輪太夫、(奥)豊竹呂勢太夫
   三味線=(中)鶴澤清志郎、(奥)鶴澤清治
  (休  憩)
  天満紙屋内の段
   太夫=(口)竹本津國太夫、(奥)豊竹呂太夫
   三味線=(口)竹澤團吾、(奥)竹澤團七
  大和屋の段
   太夫=豊竹咲太夫、三味線=鶴澤燕三
  道行名残の橋づくし
   太夫 小春=豊竹芳穂太夫、治兵衛=豊竹希太夫、
      竹本小住太夫、豊竹亘太夫、竹本碩太夫
   三味線 竹澤宗助、鶴澤清𠀋、鶴澤寛太郎、
       野澤錦吾、鶴澤燕二郎
  人形役割(各段共通)
   治兵衛=桐竹勘十郎、小春=吉田和生、おさん=吉田勘彌、
   孫右衛門=吉田玉男、太兵衛=吉田文司、丁稚三五郎=吉田玉勢、
   おさんの母=桐竹紋秀、五左衛門=吉田玉彦   外

この上演が決まった時、え、また?という気がした
のだったが、調べてみたら見ていない・・なぜそう
思ったのか、今回のプログラムの記事を見て、よう
やく疑問解消。

近松より50年余り後に改作された、「時雨炬燵」を、
2015年に見ている。

紙屋治兵衛は、従妹のおさんを妻にし、ふたりの子
どもまで儲けながら、遊女・小春に馴染み、茶屋通
いに明け暮れて恋敵である太兵衛と、小春の身請け
を争っている。

治兵衛の兄・孫右衛門やおさんの母(治兵衛の叔母)
は、治兵衛に放蕩をやめさせようとするが、おさん
の父・五左衛門は、娘や孫が可愛くて、治兵衛を敵
視している。

冒頭の河庄の段では、小春が治兵衛に愛想尽かし、
怒った治兵衛は兄に、小春と別れると誓う。

しかし、この小春の愛想尽かしは、おさんの頼みで
自らは身を引く覚悟だった。

しばらくして小春の身請けが決まったという噂が。

驚いて治兵衛のもとを訪れる兄と義母・・てっきり
治兵衛が身請けしたと勘違いしたのだ。しかし、実
際に身請けしたのは太兵衛・・誤解が解けたふたり
は帰路に。

太兵衛のことを嫌い、身請けされるくらいなら死ぬ
とまで言っていた小春がこんなにも早く身請けされ
るなんて・・と、治兵衛は小春の不実を恨む。

それを聞いて、おさんは驚く。まさか、そこまで小
春の思いが強いとは、思っていなかったのだ。

ここで小春を死なせては、あまりにもすまないと、
今度は、おさんの方が身を引く決意・・太兵衛と張
り合って、小春を身請けして来てと、金を渡して治
兵衛を送り出そうとする・・・

まさにその瞬間に、舅の五左衛門が現れて、すべて
をひっくり返す・・

なんだかなー、みんないい人なのに、誰も幸せには
なれない結末。死んでいくふたりが、実は一番幸せ
なんじゃなかろうか・・いや、やっぱり心残りはあ
るだろうから、幸せな死ではないかな・・。

「河庄」の段は、難曲として知られているそうだ。
後半を語った呂勢太夫師は、今回が初演とのこと。

小春の微妙な心の動き、愛想尽かしが偽りだと悟っ
た後の孫右衛門の優しさ、逆になにも知らず小春を
打擲しようとする治兵衛の悔しさ・・いずれも見事
な表現で、涙を誘われた。

先ごろ人間国宝に認定された咲太夫師が、大和屋の
段で元気な姿を見せてくれたのも嬉しい。


第二部の「女舞衣」もだったけれど、心中ものの男
どもは、揃いも揃って、身勝手で役立たずの甲斐性
なしだよね・・・どうしてこんなのがいいのかなぁ。

と思ってしまうのは、現代的感覚にすぎますかね?
posted by JTm at 10:03| 文楽 | 更新情報をチェックする

2019年09月18日

2019.9.17 人形浄瑠璃9月文楽公演@国立小劇場(その1)

2019.9.17 人形浄瑠璃9月文楽公演 第二部

演目
「嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)」
  花菱屋の段
   太夫=竹本織太夫、三味線=鶴澤清介
  日向嶋の段
   太夫=竹本千歳太夫、三味線=豊澤富助
  人形役割(注記以外は各段共通)
       娘糸滝=吉田蓑助(日向嶋)、吉田蓑紫郎(花菱屋)
   花菱屋長=吉田玉輝、花菱屋女房=吉田文昇、
   景清=吉田玉男、佐治太夫=吉田蓑二郎   外
  囃子=望月太明藏社中
  (休  憩)
「艶姿女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)」
  酒屋の段
   太夫=(中)豊竹靖太夫、(前)豊竹藤太夫、
      (奥)竹本津駒太夫
   三味線=(中)野澤錦糸、(前)鶴澤清友、
       (奥)鶴澤藤蔵
  道行霜夜の千日(野澤松之輔=改訂・作曲、澤村龍之介=振付)
       太夫 三勝=豊竹睦太夫、半七=竹本南都太夫
      ツレ=豊竹咲寿太夫、竹本碩太夫、竹本文字栄太夫
   三味線 野澤勝平、鶴澤清馗、鶴澤友之助、鶴澤清公、鶴澤清允
  人形役割(各段共通)
   三勝=吉田一輔、半七=吉田玉助、お園=豊松清十郎、
   半兵衛=吉田玉志、半兵衛女房=吉田蓑一郎、
   宗岸=吉田玉也、丁稚長太=吉田文哉   外
  囃子=望月太明藏社中

今月の文楽公演はまず第二部から。第一部の方が
第人気が高いようだが、二部には若干の空席も。

「嬢景清八嶋日記」。5月に素浄瑠璃で聞いた
「出世景清」の後日談みたいな話だが、設定は違っ
ていて、盲目となった景清は、日向に流罪となっ
ている。

景清と熱田の宮司の娘の間に生まれた糸滝は、育
ての親であった乳母の遺言で自らの生い立ちと、
実父の景清の身の上を知る。

盲目の父に、生きる道を与えたいと、官(盲官=
座頭、勾当、検校など盲人の役職)を手に入れる
ための金の工面に、遊女屋・花菱屋に身売りしよ
うとしている。

花菱屋の段では、肝煎の佐治太夫に連れられて、
糸滝が花菱屋にやって来る。

事情を聞いた花菱屋の長は、糸滝に同情して、し
まり屋の女房を説得して高額で糸滝を雇い、しか
も流罪の地に、父に会いに行くことを許す。

この場面は、糸滝と父の身の上を紹介するのが目
的なのだろうが、花菱屋女房をコミカルに描くこ
とで、面白く見せる。後段の重苦しさとは対照的
に、ちょっと軽い場面である。

そして、日向嶋の段では、盲目となった景清の元
を糸滝と佐治太夫が訪れる。

この場面は、能の「景清」に取材しているようだ。

通常、各段の最初は、まず三味線の演奏から始まっ
て、太夫の浄瑠璃が語り出されるのだが、ここは、
逆に太夫から始まった。

そしてその語り始めの詞は、能の謡そのままだ。

「松門独り閉じて年月を送り、みづから清光を見
ざれば時の移るをも弁えず。暗々たる庵室に徒ら
に眠り、衣寒暖に与へざれば肌は髐骨と衰へたり」

難しい・・・

能の解説書によれば、粗末な小屋で目も見えずに
暮らす景清が、身の落魄を嘆くセリフとのこと。

景清にとっては、糸滝は捨てた娘であり、もしか
したらその存在すら忘れていたのかもしれない。

しかし、何も知らない娘は一途に父を慕い、その
生活をなんとか安楽にと願っている。

その思いはやがて父にも通じるが・・しかし、父
は、時の権力者の敵となってしまった自分とのつ
ながりで、娘が不幸になるのではとの危惧を抱く。

わざとつれなくして娘を帰す父・・船が沖合に出
た時、父は初めて本心を語る。

「今叱りしは皆偽り。人に憎まれ笑われず夫婦仲
よう長生きせよ」

そしてここで初めて、父は娘が金を作るために、
遊女に身を落とすことを知る。

切ない場面ではある。が、最後にもうひとつの逆
転が・・・景清は鎌倉の頼朝に仕えることを決意
して、旧主の平重盛の位牌を海に流すのだ。

果たしてこれが、糸滝にとっても救いとなるのか
・・・残念ながらそれは語られず。

最近の文楽公演では、一段をふたり、三人の太夫
が分割して語ることが多いが、この「嬢景清」は、
各段ひとりの太夫が語り切った。

落ち着いて感情移入ができる感じ・・良いものだ。

「艶姿女舞衣」。演題の女舞衣は、ヒロインの三
勝が、舞芸人であるから。実際の心中事件を基に
した演目だそうだ。

驚いたのは冒頭の捨て子の一件。
酒屋の店先に赤子を抱いた女が現れ、酒を買って
丁稚に運ばせ、途中で赤子を丁稚に預けていなく
なる・・・

ひぇー、これ、落語「お文さま」と同じじゃない
か!・・あの噺はもともと上方落語、当然、この
浄瑠璃の方が元ネタだろう。

落語では若旦那が外に作った子を、なんとか家に
入れようとの算段だが、こちらはそんなに浮いた
噺ではない。

若旦那の半七は、女房・お園がありながら、女芸
人の三勝と深い仲となり、子どもをもうける。
それを怒ったお園の父・宗岸は、無理やり娘を連
れ帰るが、お園は半七恋しさに泣くばかり・・

思い余った宗岸が、お園を連れて婚家である酒屋・
茜屋を訪れるところから物語は始まる。

実は半七は、三勝の兄のために金策をするうち、
挙句に人を殺めてしまった。久離切って勘当した
ものの、息子は息子、かばいたい親心から、父の
半兵衛は、息子の身代わりになろうとしている。

宗岸もまたそれを知って、半兵衛夫婦の菩提を弔
うために、娘を嫁に、とやって来たのだ。

三人の親たちが話し合ううち、お園は先ほどの捨
て子が、半七と三勝の娘・お通であることに気づ
く。

実の孫の顔を見て、心がゆらぐ半兵衛夫婦・・お
園もまた、この子は恋しい半七の形見とかき抱く。

人を殺めた半七と、それが自分のためであること
を悔やむ三勝は、娘を祖父母に預けて心中しよう
としている。

お通のふところには半七の書置きが・・・

そして、後段は、千日前での、三勝半七の心中場面
となるわけだ。

うーん・・正直、この場面、ホントに必要かなぁ・・
という気がした。

なぜなら・・

半七は書置きの中でお園に「お前にはすまないが、
三勝とはお前を知る以前からの仲。この世では添
えないが、来世では必ずお前と」と言い、お園は
それをとても喜ぶ。

ところが、道行になると、今度は三勝に「千年万
年先の世まで、必ずふたりは一緒ぞや」と言う。

なんかなー、これだと半七の身勝手さばかりが印
象に残っちゃう。

それぞれ別々に見れば、どちらも美しく悲しく、
良い話なんだけど・・・。

プログラムの解説によれば、この道行場面は、昭
和のそれも戦後になって、復活されその後の再改
訂を経て成立したものとのこと。

さて、当初の物語は、いったいどんな話だったの
だろうか?  大いに気になるところではある。
posted by JTm at 12:57| 文楽 | 更新情報をチェックする

2019年06月30日

2019.6.28 文楽若手会@国立小劇場

2019.6.28 第7回 文楽若手会 文楽既成者研修発表会

演目
「義経千本桜」
  椎の木の段
   (口)竹本碩太夫、鶴澤清允
   (奥)豊竹咲寿太夫、鶴澤友之助 
  小金吾討死の段
    竹本小住太夫、野澤錦吾
  すしやの段
   (口)豊竹芳穂太夫、鶴澤清馗
   (中)豊竹靖太夫、鶴澤寛太郎
   (奥)豊竹亘太夫、鶴澤清公
   人形役割(各段共通)
    いがみの権太=吉田玉勢、弥左衛門=吉田文哉、
    娘お里=吉田簔紫郎、弥助実は平維盛=桐竹紋秀、
    若葉の内侍=桐竹勘次郎、梶原景時=吉田玉路 外
  (休  憩)
「妹背山婦女庭訓」
  道行恋苧環
    太夫 お三輪=豊竹希太夫、
       橘姫=豊竹咲寿太夫、求馬=竹本小住太夫、
       竹本碩太夫
    三味線 鶴澤清𠀋、鶴澤燕二郎、鶴澤清允、
        野澤錦吾
   人形役割 お三輪=桐竹紋臣、
        橘姫=吉田簔太郎、求馬=吉田玉誉   
 囃子(各演目共通) 望月太明藏社中

この若手会には、2014年の第2回以来だ。数えてみれば
毎年開催されていたと気づくが、はて、なぜ何年もご無
沙汰だったのか?・・たぶん、他の会と被っていたのだ
ろうけれど。

そのご無沙汰の間に、また一段と世代交代が進んだのは
確かで、今回の出演者も「え、まだ若手なの?」と思う
方もおられるようだ。

よく言われることだが、後継者の育成は急務である。

もちろん、国立文楽劇場での技芸員養成は、歌舞伎など
に比べると上々の成果である。

どうしても家柄が優先されてしまう歌舞伎では、養成所
出身の若手が大きな役を演じることは至難だけれど、文
楽ではすでに、中心的役割を果たす養成所出身者も多い。

ただやはり、「やってみよう!」という若い人が少ない。

時代の流れ、価値観の変化と言ってしまえばそれで終わ
りだが、何度もの危機を乗り越えて、今日まで伝わって
来た日本の大切な芸能を、ここで途絶えさせてしまうの
は、あまりにも惜しい。

こういう若手の会を、どんどん開いて、出来れば若い人
たちに積極的にPRして欲しい。

5年前に拝見した時に比べて、今回ははるかに満足度が
高かった。この5年、演者のみなさんが、どんなに真剣
に、いい仕事をしてきたのか・・よくわかりました。

もうひとつ、おまけ。
先日発表された、今年度上半期の直木賞候補作に、大島
真寿美氏の『渦ー妹背山女庭訓 魂結び』がノミネート
された。

浄瑠璃作家・近松半二の生涯を題材にした小説である。
ちょうど「妹背山~」の上演と重なったこともあり、興
味深く拝読した。このうえは、ぜひ、受賞して、文楽へ
の世間の関心を高めて欲しいものだ。

本選考は、7月17日、午後4時から行われるそうだ。
posted by JTm at 09:17| 文楽 | 更新情報をチェックする